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東京高等裁判所 昭和54年(く)16号 決定

主文

原決定を取消す。

本件刑の執行猶予言渡取消請求はこれを棄却する。

理由

本件即時抗告の趣意は、申立人が提出した即時抗告申立書に記載されているとおりであるから、これを引用する。

所論にかんがみ、記録を精査検討してみると、被請求人は、昭和四九年一月一四日東京高等裁判所において、窃盗、有価証券偽造、同行使、詐欺の各罪により懲役二年六月、執行猶予五年、保護観察付の判決を受け、同年一月二九日右判決が確定し、それ以来保護観察下にあったが、昭和五三年一二月二二日、検察官は、被請求人が保護観察の期間内に遵守すべき事項を遵守せず、その情状は重い、と主張し、右刑の執行猶予言渡取消を原裁判所に請求し、原裁判所は、被請求人の意見を聴いて、その請求により口頭弁論を経たうえ、同五四年一月二四日、検察官の請求を認容し、被請求人につき刑法二六条の二第二号にあたる事実があると認め、右刑の執行猶予言渡を取消す旨の決定をしたものであるところ、原裁判所において取調べた証拠及び記録によれば、原決定の右事実認定並びに判断は、当裁判所においても首肯できないわけではない。しかしながら、原決定は、被請求人の執行猶予期間満了の数日前(昭和五四年一月二四日)になされたものであり、本件執行猶予言渡の取消事由の対象とされる執行猶予者保護観察法五条所定の遵守事項のうち、同条二号違反と目される事項については、これを特に取上げるのは相当ではなく、また、同条一号違反については別に起訴されて目下審理中であることを勘案すると、この段階に至って、右の各違反を取上げて執行猶予の取消の事由とするのは相当ではない。したがって、右と異る原決定は、結局取消すべきものといわなければならず、本件抗告は理由がある。

よって、刑訴法四二六条二項により原決定を取消し、本件刑の執行猶予言渡取消請求はこれを棄却することとし、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 向井哲次郎 裁判官 小川陽一 山木寛)

〈以下省略〉

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